かなり昔、私が社会人になって数年後の時、この本の存在を知って読みました。
あー、もっと早く読んでいたら、物事の考え方が変わっていたかもと、しみじみ思ったものです。
読んだあとで人生が変わったかと言われると、分からないですが、人生を変える気があれば、その気になれば、もしかしたら変えるチカラになったかも知れないなあと思います。
この本をご紹介します。
本の帯に書かれた東大生の感想(一部)から引用すると、こんな言葉があります。(京大生の感想が書かれていないので、関西人としてはちょっと寂しい気がします)
・この本を読んでいないなんて、人生の半分を損してる
・大学やその先で求められている「学び」に対する姿勢が、少し分かった気がする
・他分野との接触、混在が新しい思考法を生み出すという考えがとても新鮮に思えた
・高校生の時は意味が良く分からなかったけれど、大学に入って文章を書くようになり、先生のおっしゃっていたことの重要性がよくわかった
大学生だけでなく高校生も読んで、この本から何かを掴もうした人がいるんですね。
読んだ人の感想上記のとおり、内容に納得した人が(おそらく沢山)いるようです。
「思考の整理学」という本は、1983年に筑摩書房から発行された本で、著者は外山滋比古(とやま しげひこ)さんです。某大学の名誉教授でエッセイストでもあります。
この本は外山さんのエッセイが集められたもので、結構平易(と私は思います)な文章で書かれていて読みやすいです。中学生でも難しくないと思いますね。
文庫版は、約210ページで、33のエッセイで構成されています。1つのエッセイは、6ページ(文字数の関係で5ページか7ページも若干あり)で記述されているため、何かの隙間時間で読めます。
最初のエッセイの題名は、グライダーです。
概要としては、こんな感じのことが書かれています。
(以下、私が読んだ内容を私が読み取った内容で記述していますので、そういう雰囲気のことが書いてあるのかと読んでください)
学校の生徒は、先生と教科書に引っ張られて勉強している。
空を飛ぶグライダーみたいなものだ。自力では飛び上がれない。
しかし、飛行機は自力で飛べる。学校はグライダー人間の訓練所であり、飛行機人間は作らない。
だから、学校での優等生は、グライダーとして優秀であるが、飛んで(自分で考えて)みろと言われると困る学生が多い。
自分で物事を発明したり、発見するのが苦手な学生が多い。
グライダーは大抵の場合、軽飛行機に曳航されて離陸します。
(ACより)
グライダー人生にならないためには
私は、勉強が大の苦手でした。嫌いともいいます。特に、書くこと自体が苦手でした。
だから、学生(文系)のとき卒業論文(卒論)を書くことに大変苦労しました。
専門の勉強をせずにバイトばかりしてたから、専門知識なんてほぼ無し状態でした。
最低限、やれといわれた勉強の10%程度はやったような気がします。
前期試験や後期試験のときは、友人のノートを借りたり、大学前の本屋で売ってた板書ノートのコピーを買って一夜漬けで頭に叩き込む程度のことしかやってなかったです。
でも卒業するためには、現実問題として卒論を書かなければならないんですよね。
卒論を書く時期になると、卒論の好きなテーマを決めて、好きなことを書けといわれて、学生は困り果ててしまいますね。
私もメチャクチャ困りました。何を書こうか。。。
著者に言わせると、学生は、こうしなさいと言われると反発してそんなことできないとゴネて、では、ご自由にと言われると途方にくれるとか。
私は、論文作成で先生に相談すればいいと安易に考えてましたね。
相談に行けば、厳しいことを言われるかもしれないけど、結果的には先生の指導が受けられると思ってたので、しつこく相談にいって言われたことに従っていました。
とにかく書いて、OKもらって卒業すればいいのですから。
極端に言えば、訳が分からないままに書き続けて、読み直して、先生のレビューを受けての繰り返しでした。いやー、しつこい奴だったと思います。
まさにグライダー学生です。いや、勉強しなかったので、グライダー未満かも。
この本では、前述のグライダー専門の学生ではなく、グライダー兼飛行機のような人間になるためには、どのようなことを心がければよいか、そのヒントを教えてくれます。
さらに、この本の発刊時点(1983年)でこんな予想が書かれていました。
「コンピューターという飛び抜けて優秀なグライダー能力をもつものが現れたので、飛行機になれない人間は、コンピューターに仕事を奪われる。」
そう、今はAIに仕事を奪われるのではないかと、ビクビクしている人が沢山いますね。間違いなく、奪われる仕事はあります。
(ACより)
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でも、イギリスの某大学の教授が言ってますね。「葬儀のような人間の感性に関わる仕事は、AIにはできない」
学校の教え方
昔(私が思うには、おそらく100年とか200年前のことでしょうか)、教育者は生徒や弟子に対してあえて教え惜しみをしたらしいです。
だから、生徒や弟子は、教えてもらうのではなく教育者や師匠から技なり、知識なりを盗み取ろうと努力したようです。テレビの時代劇にもそんな感じの場面がでてきますね。
その努力が実って、いつのまにか自分で新しい知識や情報を習得する力を持つようになるとか。
これに対して、今は学校側が積極的に生徒にいろいろと教えています。それはそれで、いいことだと思います。
この本の著者は、学校側の教え方に工夫を求めているようです。生徒が、学生が、もっと自主的に考えるように仕向けてはどうかと。
一例を挙げています。
ギリシャ人が輝かしい文化の基礎を築くことができたのは、自ら問題を作成して、"なぜ" を問うことができたからだといわれているそうです。
ギリシャ人がもっている飛行機能力がすばらしかったのでしょう。
学校の教育も、もっと生徒に"なぜ" を考えさせることが必要なのかもしれません。ただし、学校で教える数学や国語などの正解の理由を求める "なぜ" ではないものでしょう。
思考の整理について簡単に方法を教えることは困難だと書いてありますが、ものを考えるとはどういうことかを考えるためのヒントが詰まってます。
卒論のテーマ選定
今の学生は、卒論を書くのを急ぎすぎているのでしょうか?
きっと、急いでますよね。できるなら、さっさと書いて終わらせたい。
就活しなければならないし、卒論なんて面倒なことは早く終わらせて、重い肩の荷を減らしたい。
研究生活を送りたい学生は別かもしれませんが。
でも、残念ながら卒論は書かねばなりません。
テーマに何を選べばいいのか、皆目見当がつかない場合どうしましょう?
先生に相談したら、前述の「こうしなさいと言われると反発してそんなことできないとゴネて、では、ご自由にと言われると途方にくれる」パターンにはまってしまいかねません。
ここは、急ぎ過ぎてはいけないです。
就活、卒論などのtodolistとスケジュールを作って、着実に作業を進めるしかないです。
卒論のテーマは、情報を集めて、自分の考えを組み合わせて混ぜてみて、少し時間をおいて考えを寝かせてみるのがいいと、この本に書かれています。
論文のテーマは2つか、3つもって考えるのがよい。テーマ同士を競わせて、伸びそうなものを選ぶのがいい。
テーマを寝させるほど大切なことはない。思考を生み出すにも、寝させるのが必須だ。
相手(論文のテーマ)が自分に寄ってくる。
寝かせる(時間を置く)ことにより、自分自身の頭の中で考える余裕ができて、考えが整理されて、自分に合った論文のテーマが見つかりやすくなるということのようです。
でもね、テーマを1つ考えることで四苦八苦してるのに、2つ、3つと言われても考えられるはずがないじゃないか!と思いますよね。
だけど、この本では敢えて考えろ!と言ってます。
さらに、テーマを思い付いたら、書きたいことを整理して、何を書きたいかを人に聞いてもらうのも一案だと。
もし、ダラダラとしゃべり続けて、聞き手にわからなくなるようなら、書きたいことがまとまっていないと理解すべきである。書きたいことがまとまっていると、簡潔に話せて、聞き手にも分かり易くなるそうです。
まあ、ごもっとも。
卒論テーマに必要な要素
卒論を書くのが難しいとか、書いてる時間がないといっても、さすがに他人の論文をコピペするわけにもいかないですよね。
今は、学生が作成した論文が複数の他人の論文をあちこちから拝借してコピペしたものかどうかを判断してくれるシステム(最初は、どこかの大学の先生が開発)があります。
学生にとっては厳しい環境になりました。
じゃあどうするか?
この本ではこんな感じのことが書かれています。
他人のアイデアを活用しながらも、自分の独創性を織り交ぜて論文を作成すればいい。独創性といっても、その独創性をどうやったら出せるか?
自分が独創的だと思っていればいい。ただし、自分が独創的だと思えるアイデアを考えるしかない。
こんな本も参考になると思います。
アイデアといっても簡単には出てこないですよね。だから困ってるのに。アイデアが浮かばない場合はどうするか?
こんな記述がありました。
ある数学者が、長い間、ひとつの問題に取り組んでいて、どうしてもうまい解決ができなかった。あるとき居眠りした。ふと目を覚ますと、突然、謎が解けたらしい。
この数学者の知識、経験、感情がうまく組み合わさった結果ではないでしょうか。
寝ている間に脳が知識を整理してくれるとも言われてますね。
やはり、経験不足の学生では考え続けても出ないものは出ないので、とにかく思い付く案をメモして少し時間を置く(寝かせる)のがいいみたいです。
それでもダメなら、友人に相談してみるのもいいと思います。一緒に真剣に考えたり、雑談したりしてると、会話の中にヒントが隠れていて案外閃くものです。
考えても、うまくいかないとあきらめてしまう場合があるかもしれませんが、考え続けるといいアイデアが浮かぶ場合もあります。
友人たちと集中してブレインストーミングをやってみるのも一手です。
知識を頭に残すには
この本を読んでいると、慣性の法則、触媒、残像作用、物理学、生理学、心理学、収獲逓減の法則、ピグマリオン効果などの多様な言葉が出てきて、様々な観点で物事を考えています。
でも、例を挙げて解説しているので、難しくはないです。
先生の説明で分かりにくい言葉や説明が出てくると、よくメモを取りますね。先生が言ってることを漏れなくメモする人もいるようです。
私が学生のとき、講義中に先生の言葉・説明を必死にメモを取った記憶がありますが、あとで読むと何のことかよくわからないことが沢山ありました。
メモをとることに必死になって、内容をよく聞いていなかったのです。意味のないメモです。さらに、メモをとると安心してしまって忘れてしまうんですね。
著者によると、感心・興味のないことはすぐに忘れる。これ、もっともだと思います。
忘れてはいけない、忘れると大変なことになると思いながら聞いていると、結構覚えているらしいです。その合間にメモをたまにとっておけば、あとで読み返したときによくわかるんでしょうね。
興味をもって、本を読んで知識をどんどん蓄積しても、いずれは頭の中が満杯になり、知識を増やそうとしても増やせなくなくなる気がします。
著者はこんなことを書いてます。
知識をどんどん蓄積しても、あまりにやり過ぎると何かの問題に対する好奇心が薄れてきて知識欲が低下する。在庫の知識を再点検して、慎重に少しずつ臨時的なものを捨てていく。不易のものが残るようになれば、そのときの知識はそれ自体が力になるはず。
不易? 自分で辞書で調べると覚えるでしょうね。
論文を書くまえに、参考文献を読むことが多いでしょうが、興味・関心を強くもって、また、忘れてはいけない、忘れると大変なことになると恐怖感ももって読むといいかもしれません。
とにかく書く
卒論を書くには、参考文献から必要な情報を集めますよね。
集めた情報が多すぎて整理できずに、自分の論文に書きだせない人もいます。
この本には次のようなことが書かれています。
とにかく書いてみることが重要です。書いていると頭の中で筋道が立ってくる。
自分がわかっていないことが、わかるようになって、更に書けるようになる。
そして、あまり細かいことは気にせずに、まずは全体を書き終える。一旦書き終えると、少し気分が楽になって、読み直しと修正にゆとりができる。
読み直しのときは、声を出して読む。なぜか考えが進み、アイデアが出やすい。
あとは、修正だけ。
私も同感です。
この本の著者は、修正のことを手術と表現しているところもあります。大きな手術、小さな手術の箇所がでてきますね。
あとは、完成させるのみです。
最後に
11世紀中ごろの北宋の国の欧陽脩という歴史家・文学者のことばがご紹介されています。
◆三上:良い考えが生まれやすい3つの状況のことをいいます。
・馬上:乗り物に乗っているとき
・枕上:布団でねているとき
・厠上:トイレの中にいるとき
◆三多:文章が上達する秘訣のことをいいます。
・看 多:多くの本を読むこと
・做 多:多くの文を作ること
・商量多:多くの工夫をして推敲すること
私は、お風呂で湯船につかっているときに、考えがまとまりやすくて、アイデアも出やすいですね。
文章作成の基本は三多なのでしょうが、看多と商量多は何とかないそうな気がしますが、做多は、なかなか手がつかない。とにかく手を動かすことが大切だと思います。
思考の整理学、大変興味深く読みました。
高校生や受験生にもおススメです。
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